データを基に、世界を正しくみよう
認知を歪める10の思い込みに気づこう
この本は、スウェーデンに活動拠点を置く公衆衛生の権威で、TED Talksでも人気の著者が、生涯をかけて伝えたかった内容がまとめられています。
著者のハンス・ロスリングとその息子夫婦(オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロランド)で本の構想を練り始めたのが2015年。
その翌年、著者は膵臓癌の宣告を受けました。
予定していた講演を全てキャンセルし、彼は、残りの生涯をこの本の執筆にかけました。
著者の他界後、息子夫婦が意思を引き継ぎ、出版されたのがこの「FACTFULNESS」です。
この本を通して著者が伝えたかった事は、
「私達は、世界の事実を知らなさすぎる、それに気付こう。」
「なぜ私達の認知は歪んでいるのか、その原因を知り、対処しよう。」
という事。
なぜ重要なのか。
それは、間違った知識によって、私達は意図せず間違った行動をとってしまう危険があるからだと、著者は訴えかけます。
インパクトを与えるために、著者は4択の問題を提示します。
何%の人達がそれに正解するか、地域、人種、職種、学歴など様々なカテゴリー別に紹介して正答率の低さを示し、
ランダムに答えを選んで33%正解するチンパンジーよりも低いのだと強調します。
(これは彼のTED Talksの講演でも何度か冒頭で話題に上げ、聴衆の関心を引いていました。)
なぜランダムに答えるよりも正答率が低いのか。
それは、私達人間のもつ、10の思い込みによるものだ、と書かれてあり、その内容について、統計データと著者の体験談を交えながら、説明されています。
分断本能
世界は貧富2つのカテゴリーに分断されている、という思い込み。
今はその中間の国が大多数。
ネガティブ本能
世界はどんどん悪くなっている、という思い込み。
データをみれば、多くにの経済、生活の質、教育etc. 各段によくなっている事が分かる。
直線本能
グラフは直線状になる、という思い込み。
実際には、log関数状、こぶ状、指数関数状だったりする。
恐怖本能
飛行機事故、テロ、放射線被ばく etc. 恐怖度の高い事件ばかりおそれ、もっと頻度の高い危険には注目しない。
リスクは ”危険度” × ”頻度” (質 × 量)で計算すべき。
過大視本能
目の前の数字が一番大切だ、という思い込み。
これの対極にあるのが、公衆衛生。
大切なの事は、「数字の比較」と「割り算」。
パターン化本能
ひとつの例が全てに当てはまる、という思い込み。
自分の「当たり前」が世界全体の「当たり前」と勘違いしない。
宿命本能
全てははじめから決まっている、という思い込み。
アフリカやイランの近代化に目を向けず、これからも近代化することはないと思い込む、西欧諸国の上から目線。
単純化本能
世界は1つの切り口で理解できる、という思い込み。
物事をシンプルにした方が、馴染みやすく、惹かれやすいから。
様々な角度から世界をみる、という姿勢が必要。
犯人捜し本能
誰かを責めれば物事が解決する、という思い込み。
誰かを責める事に気持ちが向くと、学びが止まる。
犯人を見つけた途端、考えるのを止める。
焦り本能
今すぐ手を打たないと大変なことになる、という思い込み。
一息つこう。
判断を鈍らせないために。
私の感想
著者特有の語り口で綴られるこれらの内容は、多少誇張した表現や解釈も含まれているように感じました。
例えば、
「福島の原発事故により避難した住民のうち、1,600人が生活環境の変化により死亡したが、被爆そのものにより死亡した人数は0である」
という内容に触れ、恐怖本能について語られていましたが、
該当の避難住民は全て避難所へ移ったわけで、もし避難せずにその場で生活した場合、被爆により何人が健康を損ねたか、単純に数字を比べる事はできません。
けれども、読み進めるにしたがって、著者の魂の訴えを感じました。
特に後半の章では、なぜ著者がこのような考えに至ったか、自身の経験談がちりばめられており、深く感銘を受けました。
スウェーデンとインドの2か所で医学を学び、アフリカのモザンピークで死にゆく子供達を診療し、飢餓と疾患を研究してきた著者だからこそ、公衆衛生・データに基づいた考え方がいかに大切か、世界の人々に知ってほしかったのだと思います。
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また、この本の後ろに書かれた脚注と出典の多さに驚かされました。
この2つで、全頁のほぼ半数に迫る勢いです。
さすが公衆衛生の専門家が、データの重要性について訴えている本だと思いました。
途中で違和感を覚える内容があったとしても、是非、最後まで読み、考えるべき内容の本だと思います。
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