イシューからはじめよ

イシューからはじめよ ー知的生産の「シンプルな本質」ー(安宅 和人)

イシューからはじめよ

本当に優れた知的生産には共通の手段がある

今年初めに購入していたこの本ですが、読むのが後回しになっていました。

読んだ感想は、

「もっと早くに読んでおくべきだった。」

です。

私はだいぶ過ぎてしまいましたが、大学院生かポスドクの初めの頃に読んでおくと、その後の人生に大きな変化が訪れるような気がします。

少なくとも、私の中の研究の取り組みに対する考え方は変わりました。

今まで、自分ではなんとなくわかったつもりになっていたところが、実は何もわかっていなかったのだと痛感させられました。

著者の安宅和人さんのバックグラウンドとしては、

  • 経営コンサルティング会社・マッキンゼー&カンパニーでコンサルタントとして働き
  • 途中で退社してアメリカの脳神経科学の大学院に入学、博士号をとりポスドクとして研究を続け
  • 2001年のアメリカ同時多発テロを契機に帰国
  • マッキンゼーに復帰し、2008年からヤフー株式会社に転職
  • 現在も国の仕事を含め、様々な分野のコンサルタントを行っている

……そうです。

最近では、シン・ニホンもベストセラーになっていますが、この「イシューからはじめよ」はそれよりも約9年前に出版され、2021年現在28万部売れている本、とのこと。

内容は、著者のマッキンゼー時代のノウハウを元に構成されていますが、

通常のマッキンゼー方式紹介本と違うのは、

「マッキンゼー方式を取り入れた研究への取り組み方」

が通常のビジネスの場合と並行して書かれている点だと思います。

特に、著者の専門分野である脳神経科学は、私の専門とかなり近いので、自分の状況に置き換えて考えることができました。

ちょっと長くなりますが、できるだけ頭に残して置きたいので、備忘録目的で書き留めます。

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序章:脱「犬の道」

「生産性を上げる」とはどういうことでしょうか?

ここで言うところの生産性とは、

「どれだけのインプット(投下した労力と時間)で、どれだけのアウトプット(成果)を生み出せたか」

ということ。

そのためには「バリューのある仕事」に取り組む、ということだそうです。

「バリューのある仕事」は、「イシュー度✕解の質」で決まりますが、

世の中にある「問題かもしれない」と言われている事のほとんどは、実は本当に取り組む必要がない問題の事が多い(2–3/100くらい)とのこと。

つまり、「本当に取り組む価値のある問題(= イシュー度の高い問題)をじっくりと見極め、厳選しなければなりません。

これを行わず、何も考えずにがむしゃらに働き続けても、バリューのある仕事に到達することはほとんどない、といえます。

このような仕事の仕方を、著者は「犬の道」と呼んでいます。

私も含め、日本人には、「ひたすら根性で突き進む」といった傾向の人達は多いような印象がありますが、

このような根性に逃げても、生産性を上げることはできないのです。

  • 「問題を解く」より「問題を見極める」
  • 「解の質を上げる」より「イシューの質を上げる」
  • 「知れば知るほど知恵が湧く」より「知り過ぎるとバカになる」
  • 「1つひとつを速くやる」より「やることを削る」
  • 「数字のケタ数にこだわる」より「答えが出せるかにこだわる」

イシュードリブン:「解く」前に「見極める」

相談する相手を持つ

本当に重要で取り組む価値のあるイシューを見つけ出すことが最も重要となるわけですが、この作業を1人でやるのは難しい、ということは容易に想像がつくと思います。

まずは、その分野の専門家や経験のある人達に積極的に相談し、意見をききながらイシューを絞り込んでいくと、イシュー度の高さがわかってくるはずです。

仮説を立てる

著者は、まずは強引にでも前倒しで具体的な仮説を立てる事が重要だと説いています。

理由は3つ。

  • 具体的にスタンスをとって仮説に落とし込まないと、答えを出し得るレベルのイシューにすることができない
  • 仮説を立てない限り、自分がどのレベルのことを議論し、答えを出そうとしているのかがわからない
  • 仮説がないまま分析を始めると、出てきた結果が十分なのかそうでないのかの解釈ができない。

イシューが見え、それに対する仮説を立てたら、必ず「言葉」に落とし込みます。

言葉に落とし込むことで、概念をきっちりと定義し、仲間同士で共通した認識を持てるようになるからです。

その際、

  • 主語と動詞を入れる
  • Why より Where, Whtat, How を重視する
  • 比較表現を入れる

を意識すると、よい表現になるそうです。

よいイシューの3条件

よいイシューの3条件は下記。

  • 本質的な選択肢である
  • 深い仮説がある
  • 答えを出せる

3番目の「答えを出せる」は、私にも思うところがあります。

どんなに重要そうな問題に見えても、答えを出せなければプロジェクトは頓挫するわけで、現在あるリソース等で実現可能かどうか、はしっかり見極めなければなりません。

イシュー特定のための情報収集

イシューを発見するための材料を入手する方法にも、コツがあります。

一次情報に触れる

論文では、総論を引用するのではなく、オリジナルの論文を必ず孫引きするように、と言われますが、

著者によると、オリジナルの論文も、「論文」という形になっている時点で一次情報ではない、とのこと。

一次情報とは、現場の声、著者と直接会話する事、などです。

論文には書かれていない、裏話や、苦労した話、再現性のとりやすさなどが重要な一次情報となり、本物に近い感覚が身につく、ということだと思います。

基本情報をスキャンする

情報収集の第2のコツは、一次情報から得た感覚をもちつつ、世の中の常識・基本的なことをある程度の塊としてダブりもモレもなく、そして素早くスキャンする事。

そのために重要な事3点。

  • 数字で表現する
  • 歴史的背景を踏まえた常識、一般的な通念、これまでの検討の有無、などをカバーする
  • 総論などを読み、フレームワークを掴む

集めすぎない・知りすぎない

これは私がよくハマる事ですが、「情報の集めすぎ、知りすぎ」は、逆効果で、

意図的にざっくりとやるのがポイントとのこと。

知りすぎると、関心が薄れ、強烈なアイデアも生み出せなくなるそうです。

イシュー特定の5つのアプローチ

「何がイシューなのか……」とこんがらがってしまう人のためのコツも紹介されています。

  • 変数を削る
  • 視覚化する
  • 最終形からたどる
  • 「So what?」を繰り返す
  • 極端な事例を考える

他の書籍にも書いてある内容が多く、全て納得できました。

行き詰まったら、何度もこのページを読んで確認しようと思います。

仮説ドリブン①:イシューを分解し、ストーリーラインを組み立てる

以降は、イシューを見極めた後の、「解の質」の高め方について、マッキンゼー方式のノウハウを余すところなく紹介されています。

まずは、ストーリーラインを作る事。

これには大きく2つの作業が含まれます。

1つが、「イシューを分解する」事。

そしてもう1つが、「ストーリーラインを組み立てる」事です。

イシューを分解する

多くの場合、イシューは大きな問いなので、いきなり答えを出すことは難しいです。

そのため、おおもとのイシューを「答えを出せるサイズ」にまで分解していく作業が必要となります(サブイシュー)。

ここで大切なのは、「ダブりもモレもなく」分解すること。

MECE

この「ダブりもモレもなく」分解する事を、マッキンゼー用語で「Mutually Exclusive & Collectively Exhausitive, MECE (ミーシー)」というそうです。

例が秀逸だったのでちょっと紹介

eg. ゆで卵を分解して分析する場合、

  • 黄身と白身で分ける → MECEである
  • 卵をスライスしてみる → MECEではない

フレームワーク

MECE の考えを生かした汎用性の高い「考え方の枠組み」「フレームワーク」といいます。

ビジネスの世界で有名なのは、3C (顧客: Customer, 競合: CCompetitor, 自社: Companuy)」ですが、

ビジネスの世界にも、科学の世界にも、ある程度フレームワークに沿って考えるとうまくいくようです。

ただ、肝に銘じておくべきは、フレームワークにこだわるあまり、目の前のイシューを無理やりそのフレームワークにはめ込んで、本質的なポイントを見失わないようにする事。

「カナヅチをもっていればすべてのものがクギに見える」という状況は避けなければなりません。

ストーリーラインを組み立てる

イシューを分解し、そのサブイシューに個々の仮説が見えたら、次は「分解したイシューに基づいてストーリーラインを組み立てる」ステップに入ります。

最終的に言いたいことをしっかり伝えるために、どの順番でサブイシューを並べるのかを考えるのです。

人に何かを理解してもらおうとすれば、必ずストーリーが必要となる。

……激しく同意します。

本書では、マッキンゼー用語も絡めて、2種類の組み立て方が紹介されています。

「WHY」の並び立て

WHYの並び立ては、最終的に言いたいメッセージについて、理由や具体的なやり方を「並列的に立てる事」

  • なぜ〇〇に魅力があるか
  • なぜ〇〇を手掛けるべきなのか
  • なぜ〇〇を手掛ける事ができるのか

これは、私もよく使う手法です。

空・雨・傘

  • 空:空に黒い雲が広がっている(課題の確認)
  • 雨:今日は雨が降りそうだ(課題の根掘り)
  • 傘:傘を持っていこう(結論)

というようにストーリーを組んで、最終的に言いたいこと(通常は「傘」の部分)を支える、という形。

仮説ドリブン②:ストーリーを絵コンテにする

イシューが見え、それを検証するためのストーリーラインもできれば、次は分析イメージをデザインしていく事。

著者はこの分析イメージ作りの作業を、「絵コンテ」づくりと呼んでいます。

基本は、

「最終的に伝えるべきメッセージ」を考えた時、自分ならどういう分析結果があれば納得するか、そして相手を納得させられるか、という事だそうです。

軸を整理する

分析とは、「比較」する事。

そのための的確な「軸」を設定する必要があります。

定量分析には3つの型が存在し、

  • 比較
    • コラム
    • バー
    • 分布図
    • ヒストグラム
  • 構成
    • パイ
    • スタック
    • ウォーターフォール
    • ビルドアップ
  • 変化
    • ライン
    • コラム
    • レンジ

たいていはその組み合わせで表現できるそう。

  • 比較✕比較
  • 比較✕構成
  • 比較✕変化
  • 構成✕比較
  • 構成✕構成
  • 構成✕変化
  • 変化✕比較
  • 変化✕構成
  • 変化✕変化

イメージを具体化する

軸の整理後、分析・検討結果のイメージを作るわけですが、この時重要なのが、「数字が入った具体的なイメージを作る」ということ。

私が所属するラボのPIも、

「だいたいの数字はどれくらいなの?ザックリとした数字でいいから答えなさい。」

と、よく聞いてきます。

ここで正確な数字は必要なく、ザックリとしたイメージの方が重要です。

そして、注目すべき細かい変化の部分だけ、軸の目盛を小さくするとより効果的です。

方法を明示する

どうやってデータをとるか、方法を明示します。

この時、イシューが十分に考えられていれば、どのような手法で解析すべきか、的確に提示することができます。

「ほしい結果から考える」人にとっては当たり前の事でも、それを理解していない人にとっては驚くようなアプローチになることは多いそうです。

アウトプットドリブン:実際の分析を進める

アウトプットを生み出すとは

イシューが見え、ストーリーラインができ、それに合わせて絵コンテができれば、あとはその絵コンテを本物の分析にしていきます。

ただ、ここで闇雲に走ると、痛い目を見たり、プロジェクトが中断に追い込まれたりするそうとのこと。

いきなり飛び込まない

サブイシューをいきなり分析、検証するのではなく、

「最終的な結論や話の骨格に大きな影響力をもつ部分から検証を始める」事が大切。

ここが崩れると、プロジェクト全体が成り立たなくなります。

粗くてもよいから、本当にそれが検証できるのかについての答えを、まず出すわけです。

「答えありき」ではない

私達が陥ってはいけないのは、「答えありき」で解析を進めないこと。

目が曇ってしまって、真実とは別の方向にひた進むことになります。

著者の例えがまたまた秀逸だったので紹介。

" たとえば、天動説が主流である時代に地動説を唱えようとすれば、地動説に都合のよい事実ばかりを挙げるのではなく、天動説の論拠となっていることですら実は地動説の方が正しく解釈できる、ということを論証し、そうでなければ無理なり矛盾なりが起きることを示す必要がある。"

トラブルをさばく

どんなに良いプロジェクトでも、途中でトラブルに遭遇することは必至といって良いと思います。

そのときに、「正しくトラブルをさばく」事ができるかどうかが重要な鍵となります。

このために、できる限り前倒しで問題について考えておく事。

これを英語で

"Think ahead of the problem"

というそうです。

例えば、ほしい数字や証明が出ない場合は、

  • 構造化して推定する
  • 足で稼ぐ
  • 複数のアプローチから推定する

自分の知識や技では拉致があかない場合には、「人に聞きまくる」

それでもうまくいかないときは、「期限(2,3週間)を切って、そこを目安にして解決の目処がつかなければさっさとその手法に見切りをつける」

……いずれも心当たりがあり、今後は肝に命じておきたいと思います。

明快に答えを出す

いくつもの手法をもつ

当たり前ですが、「いくつもの手法をもつ」と、トラブルに対する答えを出しやすい、とのこと。

MIT人工知能研究所の設立者、マービン・ミンスキー氏の話によると、天才とは以下のような資質を持つそうです。

  • 仲間の圧力に左右されない
  • 問題の本質が何であるかをいつも見失わず、希望的観測に頼る事が少ない
  • ものごとを表すのに多くのやり方を持つ。1つの方法がうまく行かなければ、さっと他の方法に切り替える

1つの手法に固執せず、うまくいかなそうだと思ったらすぐに別の手法に切り替える……そのためには、多くの手法を身に着けて置かねばなりません。

回転数とスピードを重視する

こんなに長い記事を書いていて猛省ですが……

大切な事は「停滞しない」事。

丁寧にやりすぎず、手早くまとめる事。

60%レベルなら手早くできるけれども、これを80%にするには倍の時間がかかる……それよりも、一度60%で完成させておいて、後にその半分の時間で80%以上にまで持っていくほうが効率が良い、とのこと。

「受けてにとっての十分なレベル」を自分の中で理解し、「やり過ぎない」ように意識することが大切です。

メッセージドリブン:「伝えるもの」をまとめる

論文やプレゼンの資料をまとめていく作業について。

「本質的」かつ「シンプル」

イシューに沿ったメッセージを人に力強く伝える形でまとめていきます。

相手が聞き終わった or 読み終わったときに、受け手が語り手と同じように問題意識を持ち、同じように納得し、同じように興奮してくれているのが理想形。

そのためには、

  • 意味のある課題を扱っていることを理解してもらう
  • 最終的なメッセージを理解してもらう
  • メッセージに納得して、行動に移してもらう

必要があります。

「本当にこれは面白い」「ほんとにこれは大切だ」というイシューのみあればよく、複雑さは徹底的に排除します。

ストーリーラインを磨き込む

イシューに沿ったメッセージが伝わっているか、という視点でストーリーラインの構造を磨き込みます。

  • 論理構造を確認する
  • 流れを磨く
  • エレベーターテストに備える

論理構造を確認する

今まで作ってきたイシュー、サブイシュー、構造をきっちりと組んでいるはずなので、それをしっかりと確認します。

話の流れや比較検討に使用したフレームワークがあれば、これも図としてまとめます。

流れを磨く

優れたプレゼンテーションとは、「混乱の中からひとつの絵が浮かび上がってくる」のではなく、

「ひとつのテーマから次々と鍵になるサブイシューが広がり、流れを見失うことなく思考が広がっていく」もの、とのこと。

エレベーターテストに備える

以前、講義で「エレベーターピッチ」という言葉を習いましたが、これはそれと同じ言葉だと思います。

要は、

「重要人物にエレベーター内でばったり会った時、そのエレベーターのドアが開くまでの15-30秒でプロジェクトの概要を簡潔に説明できるかどうか」という事。

これができるためには、プロジェクトの概要、構造、ポイント等について、完全に頭の中で整理されていなければなりません。

私は、今これができる自信がないので、2021年はこのエレベーターテストのトレーニングをしていきたいと思います。

チャートを書き込む

最後に本書では、優れたチャートと磨き込みのコツが複数紹介されています。

プロジェクトの内容毎に異なると思うので、その都度参考にしていきたいです。

まとめと感想

簡潔に!と何度も書きながら、とても長い記事になってしまいました。

内容を自分の中で全然消化できていない証拠だと思いますが、私の中でほとんどすべての言葉が腹落ちするものばかりで、それらを書き留めておきたいと思いました。

今、この本の至るところに付箋がはられていますが、

何度も見返し、自分のものにしていきたいと思います。

最後に、印象的な言葉で締めくくられていたので、やっぱり書き留めておきます。

「人から褒められること」ではなく、「生み出した結果」そのものが自分を支え、励ましてくれる。

生み出したものの結果によって確かに変化が起き、喜んでくれる人がいることがいちばんの報酬になる。

 

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