奇子

奇子(手塚 治虫)

ブッダを読んでから、手塚作品を片っ端から読み返し中。

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「奇子」のあらすじ

舞台は、戦後直後の日本。

奇子は「あやこ」と読み、東北地方の大地主、天外家の当主が、自分の長男の嫁(すえ)に産ませた子、4歳。

当主の天外作右衛門は、小作人の嫁などにも手を出して子供を産ませており、

長男にも、天外家の相続と引き換えに嫁を差し出すよう指示。

遺産がほしい長男は言われるまま、すえを差し出したのでした。

設定が最初から狂っていますが、封建制度の色濃い日本の片田舎では、そんな事も普通に起こっていたのかもしれません。

 

天外家の次男、天外仁朗は、戦争から復員して自宅に帰ってきますが、そこで初めて奇子に出会います。

妹だけれど母親が産んでいない、兄の嫁にそっくり、という事から事実に気づき、「この家は狂っている」と叫びます。

 

そんな仁朗は、生きるためにGHQの工作員となっており、ある男性の殺害に関与。

血のついたシャツを洗っているところを、小作人の子のお諒に見られ、さらに奇子が知る事になります。

その後、仁朗は口封じのためにお諒を殺しますが、奇子は小さかったので殺せませんでした。

 

仁朗の殺人に気づいた天外家は、仁朗を警察に引き渡すのではなく、

天外家の面子を守るために仁朗を家から追い出し、

証人である奇子を肺炎で死亡したことにして、土蔵の地下室に幽閉しました。

 

地下室は周りを漆喰で塗り固められ、奇子は15歳になるまで、

天窓からわずかに入る光と、

世話をしにくる兄嫁(本当はお母さん)、

外の情報を教えてくれる天外家四男の伺朗、

を頼りに、暗闇の中で育ちました。

 

20年以上たったある日、土蔵が取り壊される事になって家から移されましたが、長年の隔離生活で光を恐れるようになっており、天外家から抜け出します……

「奇子」の感想

このお話では、ほとんどの登場人物が自分の保身を第一に考えており、

第三者からみると全く愚かに思える行動をとっていきます。

奇子の実の母親は、いくつもの理不尽に耐えながら天外家に尽くしますが、最後はその元凶の夫に殺されました。

 

奇子は、そんな狂った天外家の中に産まれましたが、外界から隔離されていたため、唯一純真な心を保った状態で大人になったように思います。

常識を教えてもらずに育ったため、行動は常識はずれですが、私には、天外家の身勝手すぎる言動とは対照的な、美しい女性のように映りました。

 

最後は、出口の塞がれた洞窟で、天外家メンバーのほとんどが絶叫する中、奇子だけが

「奇子……こわくない。ここ好きよ。奇子のお部屋とおんなじだもの。」

と笑い声を上げ、

2週間以上たって救助隊が発見した時には、

そこにいたほとんどの人が死亡か虫の息の状態の中、奇子だけが微笑みを浮かべて生きながらえていました。

 

奇子という、異常な環境で育った女の子を主人公に、その周りの身勝手な大人たちの行動を、それぞれ複雑に絡ませながら見事に描写しているように思いました。

 

復員後、GHQの秘密工作員として働く天外仁郎。久しぶりに帰る天外家は、人間関係が汚れきっていた。呪われた出生を背負い、運命にもてあそばれる奇子。地方旧家、天外家の人々を核に、戦後史の裏面を描く問題作!

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