「株式会社リクルート」といえば、おしゃれなロゴとCMといったイメージでしたが、
その会社を創業した「江副浩正」氏については、何も知りませんでした。
「東京大学が産んだ最大のベンチャー起業家」
と評されると同時に、戦後最大の企業犯罪と称された
「リクルート事件」
の中心人物……
そんな江副氏の生い立ちからリクルート立ち上げ、発展、そして汚職事件で起訴され、亡くなるまでを描いた本書は、
お話として大変おもしろく、そして考えさせられる内容でした。
「起業の天才!」のあらすじ
江副氏は、母親が二人というやや複雑な家庭環境で育ち、祖父からは、
「法にふれさえしなければどんどんなんでもやってみろ」
と教わって育ちました。
東京大学在学中、アルバイトで大学新聞の広告を集める仕事を行い、そのコツを掴んでそのままベンチャー企業「リクルート」を立ち上げます。
自分より優秀な人物にどんどん声をかけて仲間に入ってもらい、リクルートは破竹の勢いで成長していきます。
江副氏は、「ピーター・ドラッカー」の本「想像する経営者」に傾倒し、
「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」
というスローガンを始めとする、
「リクルートの経営理念とモットー十章」
を作成し、社訓として掲げました。
彼の行動が革新的だったのは、
- コネで就職するのが当たり前の時代において、実力のある者たちをどんどん採用し、彼らが自ら考えて会社を作り上げるシステムを作った
- 実力はあっても社会で活躍できなかった女性社員をどんどん起用し、活躍する場を作った
- 「情報を扱う仕事」が軽んじられた当時において、「情報こそが力である」と確信し、事業を展開していった
など、現代では当たり前だけれど当時は当たり前でなかった考えを持っており、それを軸として様々な事業を展開していった事にあります。
しかし、当時の情報事業の主流だった新聞社等から仕事を奪う事となり、多くの会社から不信感を買うことになります。
また、事業を大きくしていく過程において、彼の興味は徐々に政治家とのコネづくりや不動産業へ移り、社員の反感を買うことも多くなりました。
そして、
「リクルート社が財界の人達に子会社の未公開株を配り、見返りを受けている」
として朝日新聞に叩かれ、それが後の「リクルート事件」に繋がり、最終的には逮捕・起訴されます。
この「未公開株を渡す」という行為自体は、当時どこの会社も行っており、それ自体が犯罪というわけではいえなかったそうですが、
とにかく世間からの批判を浴び、新聞社や検察から何度も取り調べを受けて、最後は賄賂を送っているところをスクープされ、関係者らと共に江副氏も逮捕されました。
その後江副氏は、リクルート株を当時のダイエーに売却し、リクルート事業から手を引きました。
一方のリクルートは江副氏の痕跡を消すかのように汚名改善に奔走し、最終的には自力で借金を返済して、現在のリクルートとして存続しています。
私の感想
これは、企業を目指す人やリーダーになる人達には必読の本だと思います。
- 優秀な人達に集まってもらい、やる気を持って働いてもらうこと
- 時代の先を見通し、行動すること
は、組織を発展・維持していくための最重要事項だと思いますが、
江副氏の行動の随所にそのヒントが散りばめられていると感じました。
ただ私は、もう一つとても大切な事があり、江副氏はそれを軽んじていたように感じました。
それは、
- 自分を支えてくれる家族や仕事仲間、社会の人達に常に感謝し、彼らを第一に考える
という心です。
私がこれを重要だと確信したのは、ステーブン・コフィー氏の「7つの習慣」を読んでからなのですが、
渡米してしばらく、私も家族も異国での文化の壁に対応できず、毎日泣いて過ごしていた頃、ふと図書館で目に止まったこの本に惹きこまれ、すぐにKindleで原著・和訳を共に購入、さらに書籍も取寄せました。スティーブン[…]
この本の初版が発売されたのが1989年で、リクルート事件が起こったのは1988年ですので、彼が会社を経営しているときには、彼はこの本に出会うことはできませんでした。
ピーター・ドラッカーを熟読する江副氏だったら、この7つの習慣もきっと読んでいたんじゃないかと思います。
そして、もしこの本がもっと前に発売されていて、彼が起業時にこの本に出会っていたら、もう少し違っていたんじゃないかと思うのですが……どうでしょうか。
「エンジェル投資家」といわれる「ベンチャー企業の教育者」がいない日本で、
江副氏に会社経営における道徳観を教育する人は残念ながらいませんでした。
そして、彼は社会で多くの敵を作り、足元をすくわれる事になります。
30年以上も経済が低迷し、他国からどんどん抜かれていく日本。
その原因には江副氏のような革命児を良しとせず、潰していっている日本の分化にある、と本書では示唆していますが、
私もその意見に賛成です。
彼のような 「尖った人」を大切にすると同時に、彼らが立派な指導者になるために必要な根本的事項を教え、社会全体で育てていく事。
このようなシステムが、今の日本には欠けており、私達全員が理解する必要があるんじゃないかと思いました。